物価の低い外国の関連会社への出向、賃金切下げは可能?
こんにちは。
外国人人材紹介サービス
株式会社TOHOWORKの和田です。
今日は7月期の留学生の面接があります。
中には初めて日本へ来る人もいますが、技能実習生を経験した人達が次は日本語を勉強するために訪れるケースもあります。
学校によっては技能実習生として来日した人を受け入れない学校もありますが、資料作成がひと手間かかるのと交付率が低いのが原因なんですよね。
また今日は近くの焼肉店で特定技能外国人の受入れを検討しているということで訪問することになっています。
特定技能は技人国と違って説明しておかなければならないことがありますので、納得していただいた上での雇用をお願いしています。
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Q.物価の低い外国の関連会社への出向、賃金切下げは可能? |
外国にある関連会社に外国人従業員を出向させる場合、現地の物価水準を基準にして、賃金を切り下げることはできますか。 |
A.できないと考えるべき。
|出向とは
(在籍)出向とは、A企業がその従業員に対し、A企業の従業員の地位を保持したまま、B企業の従業員や役員となってB企業の業務に従事させる人事異動のことをいいます。
そして、使用者は、就業規則等の根拠があれば、労働者の同意なく、出向を命じることができます。
|準拠法
ただし、日本の企業から、外国にある別法人に出向させる場合、その労働条件を規律する法律は、どこの国の法律かが問題となります。
この点を定めた通則法によれば、当事者が準拠法を選択した場合にはその法律を準拠法とし(7条)、選択がない場合には、労働契約に最も密接な関係がある地の法(最密接関係地法)が準拠法となります(8条1項)。
そして、労働者が労務を提供すべき地の法が最密接関係地法と推定されます(12条2項)。
したがって、労働契約で準拠法を定めなければ労務提供地の法が準拠法となります。
他方、労働契約において準拠法を外国法と定めた場合には外国法が準拠法となるのが原則ですが、その外国法以外に最密接関係地法が存在する場合、その強行法規については、労働者が望めば、適用されます(12条1項)。
ただし、明治の選択がない場合には、ただちに労務提供地の法律が準拠法になるというのではなく、契約関係における諸般の事情を考慮して、当事者の「黙示の意思による選択」を認定するという手法が裁判例では取られています。
さて、日本企業から外国にある関連会社に出向する場合には準拠法はどのように考えればよいのでしょうか。
想定されるのは、当初、日本において労働契約を締結し、この契約関係を保持したままに、外国の関連会社との間でも労働契約を締結することになる場合ですが、このように労働契約が併存する出向関係では使用者が有する諸権限を出向先と出向元のいずれが保有するのかは場合によります。
例えば、関連会社に出向した労働者は、関連会社から業務の指揮命令を受け、労務の提供も関連会社に対して行うことになりますが、賃金については、出向先が同社での賃金規定に基づき賃金を支払い、差額分を出向元で支払うという形や、労働者には出向元企業が全額を支払い、そのうちの分担金を出向先が出向元に支払うという形、いずれも見られるところです。
また、出向後の人事考課、懲戒、解雇、復帰等の人事権や、労働時間の管理権限を出向元会社のみが有するという場合もあり得ます。
そうすると、外国にある関連会社に出向し、労務提供地が外国であるからといっても、契約関係の諸般の事情を考慮して黙示の意思による選択が認定され、日本法が準拠法であると判断される可能性は十分にあると思われます。
そこで、以下では、賃金の切下げの当否を考えるにあたって、日本法に基づいた検討を行います。
|日本法のもとでの検討
(1)就業規則に賃金を引き下げる根拠がない場合
労働契約法によれば、労働者と使用者は、合意によって、労働条件を変更するのが原則です(8条)。
ただし、賃金は重要な労働条件であり、その切下げの同意があったといえるには、不利益の内容・程度・労働者が受け入れるに至った経緯・その態様、労働者への情報提供や説明の内容等に照らして、「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点」からも判断されます。
したがって、外国にある関連会社に出向させるにあたり、現地の物価水準を基準にして賃金を切り下げようとする場合には、労働者の同意が必要です。
そして、労働者の同意を取るにあたっては、単に同意の書面を得るのではなく、労働条件の変更内容等について十分に情報提供を尽くさなければなりません。
(2)就業規則に賃金を引き下げる根拠がある場合
それでは、出向元企業があらかじめ賃金規定によって、外国にある関連会社に出向する場合には物価に連動して賃金を切り下げられる旨を定めている場合はどうでしょうか。
この場合は、賃金規定の内容が労働契約の内容になっていると考えられ、出向の根拠も就業規則に定められていれば、労働者の同意なく、賃金切下げの伴う出向を命じられるとも考えられます。
しかし、賃金は労働者の生活に直結する重要な労働条件です。
そして、出向先企業のある国の物価水準が日本に比べて大幅に低い場合には、賃金の切下げによって生じる労働者の不利益が大きく、このような不利益をもたらす出向命令自体が出向命令権を濫用したものとして無効となる可能性があります(労働契約法14条)。
出向者が日本国内に扶養家族を残して単身赴任している場合を考えれば、現地の物価水準をベースに賃金が決定された結果、労働者の生活に甚大な影響が生じることは容易にわかるでしょう。
もっとも、引下げ後の賃金が出向先の職務内容・労働条件に応じた賃金であり、不利益の程度も小さければ、労働者の事前の包括的同意の範囲内の切下げであるといえる場合もあり得ましょう。
しかし、単に現地の物価水準に連動して賃金を切り下げるというのは、減額の根拠として合理性があるとは思われず、不適法と判断される可能性が高いと思われます。
したがって、就業規則の規定を根拠に一方的に、物価水準にあわせて賃金を引き下げることはできないと考えるのが妥当と思われます。
なお、出向には、出向元企業との間での労働契約が終了し、出向先企業との間でのみ労働契約が成立する形の転籍出向というタイプも存在しますが、この場合は、そもそも労働者の同意なくして出向させることができません。
したがって、賃金引下げを伴う転籍出向を命じる場合には、十分な説明をした上で労働者の同意を得る必要があります。